十八

四時詞
秋詞

畫簷鈴鐸響丁東
炎帝餘威掃地空
蕉葉緑殘遅報雨
荷花紅老不堪風
數聲早雁驚孤枕
一味新涼入小槞
團扇稍稍憐失意
近來棄置篋奩中

畫簷ノ鈴鐸 響 丁東
炎帝ノ餘威 地ヲ掃ヒテ空
蕉葉ノ緑 殘シテ遅シ 雨ヲ報ズルニ
荷花ノ紅 老イテ風ニ堪ヘズ
數聲ノ早雁 孤枕ヲ驚シ
一味ノ新涼 小槞ニ入ル
團扇 稍稍 失意ヲ憐ム
近來 棄置ス 篋奩ノ

色もけざやか 彫り簷に 鈴鐸響き 空を通はば
南夏の主 炎帝の 神威の迹も 失せ消えぬ
殘り少なき 芭蕉の葉 雨を知らする 音遲く
さかり過ぎにし 蓮の華 風にも堪へす 紅散らむ
一人寝る夜に 初雁の 聲幾ばくぞ 驚ろかる
連子窓より 濁りなき 秋の涼風 入り來れば
寂しからむや あはれなる 呼ばれぬ團扇の 心地なり
寵失ひし 婦のごとく 置き棄てられぬ 櫛笥うち

(文化十ニ年)


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