十
閑居初冬 僻村常甘市塵踈 小小閨房樂有餘 細筧分泉堪洗硯 深窓換紙好看書 楓園墜葉呼婢掃 藥圃寒苗倩叟鋤 急景身閑猶覺永 吟詩學畫代粧梳 閑居初冬 僻村 常ニ甘ンズ 市塵 踈ナル 小小閨房 樂シミ餘有リ 細筧 泉ヲ分チテ 硯ヲ洗フニ堪エ 深窓 紙ヲ換ヘテ好シ 書ヲ看ルニ 楓園ノ墜葉 婢ヲ呼ビテ掃ハシメ 藥圃ノ寒苗 叟ヲ倩リテ鋤カシム 急景 身閑カニシテ 猶永キヲ覺エ 詩ヲ吟ジ畫ヲ學ビ 粧梳ニ代へル 鄙なる村は心地よし 煩ひ疎く閑かなり 狭き小さな部屋なれば 楽しみ満ちて余りあり 細き筧を橋立てて 泉の水を分け引けば 硯洗ふも良かりけり 窓の障子を張り替へば 紙も新らし明るらし 書を看ることもまこと良し 楓の庭の落ち葉とて 人を頼んで掃はさせ 薬ばたけの寒き苗 人をやとひて鋤入れむ 短き冬の昼の日も のどかに居れば 永からむ 化粧もせずに詩を吟じ 髪も梳かずに画を描かむ (文化十一年冬) |