細香詩集                  江馬細香詩   古家時雄譯

解説

  本細香詩集は、主に『湘夢遺稿』に収録されたる詩を対象とす。
『湘夢遺稿』は江戸時代の女流詩人江馬細香の遺稿詩集にて、漢詩三百五十編を収録す。生前に板行されざりし細香が作品、明治四年になりて初めて遺族の手により出版さる。

  細香の生れしは天明七年(一七八七)四月四日のことにて、所は美濃國安八郡藤江村(現大垣市藤江町)、蘭医江馬蘭斎の長女としてなり。名は多保または 、字は細香、湘夢と號せり。

  生涯嫁がず、獨身を通さんことを宣言し、文久元年(一八六一)七十五歳にて亡くなるまで夫をもたざりき。

  独身を通せしも、心に秘めたる思ひ人あり、そが頼山陽(安永九年一七八〇〜天保三年一八三二)なりと伝へたり。

  さはあれど、細香は情に流さるること無く、漢詩文を頼山陽に、南画を浦上春琴に学び、文人としての交流のなかより、高き精神世界を持つに至れり。

  そは日本が近代に入りて、女性の精神的独立を勝ち取らんとせる前兆ともいへ、はたまた近世女性知識人の先駆ける姿とも見ゆ。

  本連載にありては、湘夢遺稿の「詩本文」をまづ載せ、次にその「書下し文」、さらに「和訳文」を掲載す。

《細香画部分》

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