泰俳句事情――常夏の季語 十八 舊正の赤きうねりや街ゆする 大口乃り子(*1) 春節の朱に躍る字や財と吉 林田 裕章(*2) 「舊正月」は歳時記にあり、「春節」(中国の元日)は無し。日本の都市生活に於て殆ど忘れ去りし舊正月は、中國系泰人の存在感強き泰にては、特別なる季節として在泰邦人にも意識され「舊正月」「春節」が兼題となること多し。殊に盤谷舊都心部の世界最大の中華街「ヤワラー」にては政府首腦も臨席、爆竹、太鼓も賑やかに獅子舞等の催しあり。街は慶祝の文字も群衆のシャツも赤一色となり、獨特の季節感を印象づく。 龍の繪の鉢の盛りのチュアンチョム 長尾 俊郎(*3) 舊正月の一日、近所のスーパーにて盆栽のチュアンチョム特賣あるを見て一鉢買求む。桃色の小さき五瓣の花いと可憐なるに、泰語にては「愛玩を乞ふ」意なりといふ。華僑の金持の好む「成金の花」説もあり、賣場にては「富貴花」なる赤き札を下ぐ。鉢には龍を描き如何にも中國人好みなり。泰の舊正月に相應しき季語の一つなるらむ。 作者は一九九五年より在泰通算八年、泰の花木に強き關心を注ぎ、次々と新しき花を俳句の季語に採上げて詠み續く。 *1 泰國日本人會會報『クルンテープ』二○○六年二月號。作者は在泰十餘年の主婦、句歴二年。 *2 同二月號。作者は「古志」同人、二○○五〜二○○六年、讀賣新聞アジア總局長(現在、西部本社編集委員)。 *3 長尾俊郎『バンコク句日記』(その四)。一九九九年刊。 。 (主として泰國邦人紙『VOICE MAIL』より) ▼「詩藻樓」表紙へ戻る |