泰俳句事情――常夏の季語    十三


西瓜舟航(ゆ)
く明けがたの霧深く
                                    黒田 呉牛(*1)
  西瓜は夏のものと思ひけるに歳時記にては秋の季語なり。元々は初秋のものなりしか。當今は一年中賣るを見るが、泰にては十二月に出荷の最盛期を迎ふる故、少なくとも出荷風景は涼季
(*2)の季語となる。
  斯の如く歳時記にある季語も、泰の句會にては當地の季節に合ふ季語として獨自に詠み來る。
  作者は最も古き泰の句會員の一人にて、華僑系の泰社會に溶け込みて暮し且つ傳統的日本文藝にも心惹かれ、海外在住邦人のそこはかとなき哀愁を體現せる人、との記録あり
(一九九七年に死去)。都心のマンション暮しにては、かかる句は詠めまじ。


老木や息吹き返す花マンゴ
                              イスランクール陽子(*3 )   この連載第四囘にも觸れしが、マンゴーほど泰の四季の移り變りと關り深き果實なし。三月より六月にかけて出荷の最盛期なるが、雨季の終り(九、十月)頃には花咲き、何時の間にやら青マンゴぶら下がる。故に花マンゴは雨季末より涼季(十一〜二月)にかけての季語となる。
  連載第十回にて御紹介のレヌカー・ムシカシントーン
(*4)著『タイの花鳥風月』によれば、古き説教にては「人々手を伸ばさば屆く邊りにマンゴー樹實をつけたるが極樂に住む人々の幸せ」と謳はれてをり、日本に連れ行きし泰人家婢の眞つ先に氣づきしはマンゴー樹無きことなりきといふ。


*1 昭和五十四年十二月句會記録。
*2 一般には「乾季」「寒季」と呼ぶ。十一月〜二月。
 *3 『第四メナム句集』(日本人會、平成八年刊)。作者は 故人
*4 旧姓・秋山良子(りょうこ)。泰国日本人会婦人部長。。

           
(泰國邦人紙『VOICE MAIL』より)
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