泰俳句事情――常夏の季語 十一 ソムオーに實りの重さ朝の市 山本 鋒次郎(*1) ソムオーは乾季(十一月〜二月)まで續く果實の代表格なり。丸ごと買ひて自ら實を取出すは骨折るゝ業なれど、剥きたる實のみをビニール袋に入れて賣りたるは、衞生の懸念により買ふを躊躇ふ。夏蜜柑と比ぶれば甘味酸味とも控へ目なれど、余の好物の一つなり。 蜜柑、ザボン等は歳時記の冬の季語なれど、ソムオーは九月頃より出囘る上、かなり印象異る果實ゆゑ、當地獨自の季語として詠み繼がる。 ロイカトン川岸の寺燈されて 長尾 俊郎(*2 ) ローイクラトン翌日水面塵の山 塩谷 敏子(*3 ) 十一月下旬のローイクラトン(燈籠流し)は泰の代表的風物詩の一つなり。バナナの葉にて作る小さき燈籠(クラトン)に蝋燭、線香、花、賽錢等を入れ川に流す。我身の惡事を流し、水の神に感謝する行事にて、盆に死者の靈を送る日本の燈籠流しと趣旨は異れど相似たる風習なり。 夜のクローン(運河)に點々と小さき燈の流るゝ光景を夢の如しと感ずる人あれば、二句目の如き現實を捉ふる句もあり。 泰語の片假名表記には、ある程度表記の搖れ不可避なり。「ロー イクラトーン」の表記原音により近けれど、俳句に取込み易き五字の「ロイカトン」とする例多し。 泰のこの行事、歳時記と同じ「流燈」「燈籠流し」の季語にても 詠むが、泰語の片假名表記も含め、泰獨自の十一月の季語と考ふるべきならむ。 *1 泰國日本人會會報 『クルンテープ』一九九八年一月號。 *2 同一九九五年十一月號。 *3 同二○○四年十一月號。 (泰國邦人紙『VOICE MAIL』より) ▼「詩藻樓」表紙へ戻る |