泰俳句事情――常夏の季語 四 泰の果實王國なるは確かなり。一年餘前、元外交官の友人に言はれ期待しつつ此國に來りしが、ドリアン、マンゴー、マンゴスチンと毎食後に味はひ、果實王國に住む幸せを實感す。此等果實の大半は歳時記には無く、當地特有の季語となる。 道ふさぐドリアンの山歩をとむる 鹽谷 敏子(*1) ドリアンに笑み滿面の三歳兒 山本 良子(*2) 一句目。正に泰ならではの光景なり。ドリアンは「果實の王」と聞くも、日本にては目にすることなし。冷凍せる果肉をしやぶるに果實らしからぬアイスクリームの如き味にて病付きとなる。二句目。一人前の顏してかぶりつく愛らしき顏。 十ほどを地面に童女のマンゴ賣り 山本みどり(*3) 女王と名のつく色香マンゴスチン 鹽谷 敏子(*4) 一句目。ドリアンと竝ぶ代表的果實のマンゴ(マンゴー、泰語はマムアン)につきては、この連載第一囘にて紹介せし作者の故山本みどり氏は、 前年より咲き續く花マンゴ、二月末頃より拇指ほどの青マンゴに變化す。二月末より三月にかけて降る驟雨の如き雨を「マンゴ雨」と呼び、青マンゴはこの雨を滋養として日々肥りゆく。四月中旬より熟れマンゴ出荷され ……七月には最盛を極めしマンゴーは何時の間にやら姿消す …… と、季節の移變りによるマンゴーの樣々な姿を細く觀察せし記述を遺す。 二句目。ドリアン果實の王ならばマンゴスチンは女王とか。ドリアン高カロリーにて食べ過ぎを戒むる聲あるに、マンゴスチンにはコレステロールを下ぐる成分あり、ドリアンの後に食せば殊に效果ありとも言はるゝやうなり。熱帶の果實は他にも多々あり、それぞれ當地季語として俳句に詠まる。追々その紹介を致さむ。 *1 泰國日本人會會報『クルンテープ』二○○一年五月號。 *2 同二○○三年六月號。 *3 山本みどり著『六度目の辰』(二○○○年刊)より。 *4 『クルンテープ』一九九八年五月號。 (泰國邦人紙『VOICE MAIL』より) ▼「詩藻樓」表紙へ戻る |