『禹域遊吟』 その五十六
長沙 ちやうさ
憶賈誼 賈誼(かぎ)を憶(おも)ふ
(たい)侯夫人在世の頃、賈誼、都より流され當地に来れり。さすれば夫人のこの目が賈誼を見、この口が才子を揶ひしか、と想像するは愉快なり。
孤帆涵影楚江分 孤帆 影を涵(ひた)して楚江分る
橘子洲頭浮白雲 橘子洲(きつししう)頭 白雲浮ぶ
可憫長沙狂太傅
憫れむべし 長沙の狂太傅(きやうたいふ)
徒傷遷謫弄空文
徒らに遷謫(せんたく)を傷んで空文を弄す
[文]
○ 昭和五十二年七月
*賈誼 前漢の文人(前二○一〜前一六九)。若くして詩文に優れ、しばしば革新的意見を上奏
せるも長沙王の太傅に左遷さる。「弔屈原賦」を著して自らの不遇を述べ、また「鵬
鳥賦」を著して不吉の鳥・鵬に託し自らを慰む。
*橘子洲 長沙の西、湘江の中にある洲。瀟湘八景の一「江天暮雪」の名所。