『禹域遊吟』 その四十二
成都杜甫草堂 せいと とほ さうだう
此行不是夢中遊 此の行是れ夢中の遊ならず
萬里來尋似病 萬里來り尋ねて病(い)ゆるに似たり
花徑霧消梅色白 花徑 霧消えて梅色白く
蓬門日薄竹叢幽 蓬門
日薄くして竹叢幽なり
面江堂屋雖新構 江に面する堂屋 新構と雖も
隔岸村郊仍舊疇 岸を隔つる村郊 仍ほ舊疇
公後一千三百歳 公後一千三百歳
浣花溪水水西頭
浣花溪水 水の西頭
成句
[尤]
○ 昭和五十四年一月
*花徑 花の咲く小道。ここは杜甫草堂の中の赤き塀に沿ひし小道。
*蓬門 屋根によもぎの茫々と生えたる門。貧士の家を言ふ。ここは草堂
の中の門。この對句は杜甫の「客至」詩の「花徑曾て客に縁つて
掃はず、蓬門今始めて君が爲に開く」を意識す。
*舊疇 昔のはたけ。
*公後 公は杜甫を指す。杜甫は七一二〜七七○の生卒ゆゑ、その後約
一千三百年經過す。
*浣花溪 谷川の名。四川省成都の西。百花潭ともいひ、唐の杜甫
浣花
草堂を建て數年住みし所。第八句は、杜甫の「ト居」詩の第一句
をそのまま用ひたるもの。