文語三體 [母子語り] [咄本風] 駱駝の子、母に問ひて言ふ。 「かかさま。われら、三つの指の大きなる足持つはなぜぢゃ」 母言ふ。 「沙漠をありくに足の砂にうづもるるを防がうがためぢゃ」 子心得て、さてまた問ふ。 「われら大層もなく長い 「沙漠をありくに砂の目に 子得心し、さてまた問ふ。 「おふくろ様。われら背に大きなるこぶを負へるはなぜぢゃ」 母ちイと 「ありくに沙漠の水とぼしければ、ひさしく飲まですむやう水を蓄へおかむがためぢゃ」 子感じて言ふ。 「これは 「なんぢゃ」 御福 「さるにても、われら旭山動物園にあるはなにゆゑぢゃ」 と云うた。 [狂言風] これはここに住まひいたす子駱駝にさうらふ候。すこし心得ぬことのござるによつて、人にたづねうとぞんずる。折ようあれにたらちねの 「なうなうははぢやびと母者人。心得ぬことのあれば教へてたべ」 「なんなりと」 「 「されば、沙漠をありくに足の砂にうづもるるを 「心得ました。さて、われにいみじう長き睫毛のあるは如何なる故に候ぞ」 「沙漠をありくに砂の目に入るを防がんために候」 「心得ました。して、われ背に大きなるこぶを負へるは如何なる故の候や」 「されば、われら沙漠をありくに水のとぼしいによつて、ひさしく飲まであるべきやうに蓄へおかうがために候」 「よう 「なかなか」 「してして、いまひとつ教へてたび候へ。さるにても、われらが住まひ旭山動物園なるは何の故に候や」 [説話風] 今ハ昔、サルトコロニ駱駝ノ 「オノレ 母駱駝 「ゲニ吾ラガ足ハ大キクシテ且ツ指三ツアリ。ソノ故ハ、沙漠ヲ歩ムニ足ノ砂ニウヅモ埋ルルヲ防ガンガ爲ナリ」ト。 子駱駝 「サテ、吾ニイミジク長キ睫毛ノ 母 「沙漠ヲ歩ムニ 子駱駝 「吾レ背ニ大キナル瘤ヲ 母駱駝、少シ 「沙漠ニハ水トボシケレドモ、瘤ニ 子駱駝、心得顔ニテ「イカニモ腑ニ ▼「詩藻樓」表紙へ戻る |