梅院の譜 ━ 萩野貞樹 梅院暖けく歴亂飄へり、狂香遍滿して枕席に燻る。三春にして陽暉地に滿ちC水盈盈たり。嫩葉將に蓁蓁たらんとして春氣闌けたり。季は遶つて漸くにして駘蕩、節は遷つて煙景墟里を裹めり。 惰眠覺えざりき曉天の霹靂をはらみたるを。嗚呼慮らざりき君獨り輕雲に駕つて虹 ![]() 寢られざる苦し、況んや檐前の櫻花漸くに綻び、燦爛たりて然る後落花紛々たるを待つに於てをや。君が人と爲り香遠くしてu々Cく亭亭として淨く植ち、然して遠觀すべくして褻翫すべからざるなり。君の花たるや白蓮、蓮の高雅を得たりと雖も豐潤にして孤ならず、C漣に濯はれて而も豐艶なりと雖も妖ならず。君の樹たるや楊柳、 ![]() ![]() 嗟嗟已んぬる哉、再嘆す君が辭、霹靂の厚壤一時に崩すを。春三月無味にして楊花曉風に惹かる。行く莫れ流水の岸、君見ずや殘紅の片々たらんを。 柳色徒らに、江流徒らに滿滿、首を低れて君を送ればために顏色の憔悴を避くる能はず。然りと雖も知れかし、汀上に落泗の一孤影あつて旦日君を去つて曖たり、皓月君を去つて昧たる見るのみなるを。 噫、如何ぞ散ぜん寒風斷燈の嘆、如何ぞ散ぜん ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ▼「文藝襍記」表紙へ戻る ▼「詩藻樓」表紙へ戻る |