第 五 幕 (ト)白馬に乗れる公女の姿、遠見に赤壁の宮殿、霧の中に浮かび、次第に明かり行く。 公女 「朝やけを吾は走れり。鞭を揮ひて馭者は急げり。」 義太夫 ![]() 常盤津 ![]() 幾よもと ![]() 義太夫 ![]() 常盤津 ![]() 幾よもと ![]() 義太夫 ![]() 常盤津 ![]() 幾よもと ![]() 三方 ![]() 義太夫 ![]() 常盤津 ![]() 長唄 ![]() (ト)懐かしき騎士の太鼓の響きに聴き入りながら 公女 「赤壁の城、霧の夜明け、グラナダに浮かぶ城よ。高嶺より來る命の泉、花の園に詩は響きけり、花の下歌は生まれたり。」 義太夫 ![]() 三方 眞のみのり、稔りの秋。安幾、彩付きて展がれり。 義太夫 ![]() 公女 「訪ひ來りて、かの水音のたぎつ瀬の流れの律に從ひて、覺えず心の動きたれば、ひととき妙なる秋の一季の學びの宴に觸れにけり。」 義太夫 ![]() 朝やけを歌は走れり。鞭を揮ひて馭者は急げり、河邊の街トレドの丘へ。贈られし精鋭双騎に守られて、馬車は馳す。 幾よもと ![]() 義太夫 ![]() 常盤津 ![]() 三方 ![]() (ト)公女等の駆せゆく列は、空を翔ける様にて 次第にかき消え、失せゆく) (ト)三味線と尺八 単音 サハリ むら息 @ @(ポツン〜。強く低くポツン〜。低く高音) A A( 全体に少し弱く) B B( ) C C( ) D D( 微弱音 ) E E( サハリ むら息 サハリ ) F F( 極弱く ) G G( 余韻のみ ) しめやかに樂(三味)が入り、微音より次第ににぎやかになりて國王舞臺の中央に。 王、観客の正面まつすぐに立ち、わづかづつ見榮の形に近づき、この時、向かふの揚幕より公女現れ、静かにひつそりと中央なる王の傍らに立つ。二人、本舞臺を金色に飾り付けたる如き、繪の様なる眞の形の景をなして立つ。芒々たる廣がりの彩にはあれど、永遠に響き合ふ心の形象をなす。美しく愛しく大革、小鼓、笛、もろもろ。力強き尺八の音色、思ひ入れて、拍手の中を。 幕 |