(下座の響音の轟く。)
第三幕 王の間の段


第二場


(ト)王の出場と共に、舞台上、明るく絢爛たり。 王城の王の間なり。王中央に立ち胸を張り、手をひろげ、
王 「赤き大地の牧人はオリーブの畑守りけり。丘の上なるカテドラル、鐘つき堂の男の老い、鐘の音色も柔らぎて、大砲磨きをる兵士等も母の教へを想ひたり。母の御懐想ひけり。」
義太夫 堂高く、禽島宿る宮の園、梢高く、渡りし鳥も唱ひけり。
王 「無窮なる天空渡り、雲は見る、奥のハレムに守りゐし、老いて尊き母上の日毎の慣ひ、天を仰ぎ安寧希ひ祈りけり。吾が御心を祈りけり。」
常盤津 寛けき心。
王 「大陸の王者の如きオリーブの大樹の啓示受けとめよ。」
(ト)王、マントをひろげ一周。マントを収め立つ。扇をひろげ
長唄 アラブの榮華の王室の古話のいろどる夜の池。雲も移り水面(みなも)に映れば、幻の月こそ近く輝やける。月光を、彈きては返す吟遊歌。
常盤津 旅人の、今日現れて、明日消ゆる。人の世の眞實を賞でんや、異邦の心解きざらむや。
長唄一度び咲ける今日の花、やがては永久に消ゆる也。
常盤津 王城の時に遊びて、花のいろ。
義太夫 今ほころびし愛顔の。
長唄 歌にまろぶを聞かしめや。花に問ひ訓えを請へば
義太夫人倫の廣大なる天宙の掟也。
常盤津 高貴のなさけ。
長唄 くまなき愛は、四大五常のオリエントの教え也。
(ト)少し悲しげなる絃の音色。
長唄 細心の、この琴の音は蠻族の狂打にあらず。
義太夫 古代より、静かに繼ぎし生命の、今に至りしくまなき気品。
常盤津 旅人の歩みし路は八方に。
長唄 敵も見方も無く通ふ。
(ト)近衛郷に向かひ
王 「解されよ。卿。」
「奪ふものなど何も無い。幸せな一夜を安らぎを贈り与えよ。」
(ト)公女の方へ向かひ力付けて
王 「汝の琴の音の如く凛然として居よ。」
(ト)限り無く豪麗なる動きに公女の衣装きらめく。
義太夫 常なる王の深き貌。衛兵忠誠の衿正し、塔にきらめく紋章の、彫刻見上げ跳立たす。
(ト)舞台動き。
内膳の長 「新しき料理を運ばん。」
(ト)人々、ペアの人も華やかにどやどや動く。