![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 御役 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 長唄 ![]() 義太夫 ![]() ![]() ![]() (ト)白大理石の柱の前に、着飾りたる大臣、立ち大仰に手を廣げ咏ふ。 大臣(一)「優雅にてさらに品性高き王城の主。鷲の羽根廣げたるが如き天蓋の下、 ![]() ![]() (ト)大臣、豊かにはずみをり。 大臣(二)「禮節、學識、徳に優る吾が王者、古へよりの心の文化引繼ぎて、さらに異國の學士交ふれば、東西文化も稔りを滿し、世界に向けたるまなざしの、真摯、丁重にして、平和を希う治の心、寛くして賢なり。 義太夫 ![]() 大臣(三)「善政は、内外に慕はれし王也。」 (ト)高く手をかかぐ。 義太夫 ![]() (ト)公女、正面へ向き、次第に、 公女 「天空に生まれしグラナダの水、豊かなる噴水。離宮の樹々の、黄金の梢の栃の葉に想ひは通じ、赤壁の城門を入りてより、よろこびのあまりてあれば、追憶の、遠き幻重ねらる。花の野の匂ひも淡く芳しき岡に見守れる面影と母の遺愛の銀の琴。 義太夫 ![]() (ト)公女へは美しくも細き幾よもとの音色。 幾よもと ![]() 義太夫 ![]() きらめける。 (ト)柱のかげより音樂長、公女の方に手をさしあげ、涙聲にて 音樂長 「吾、永き時を過ぎ来しも、かくばかり心を揺らす樂の響は未だし。はじらひて野の花のごと、幽かにあれど強かりき。純愛の乙女の心聞こえ來たりつ。」 樂士 「見よ白髪の音樂長、かつての愛に涙ぐみけり。」 (ト)舞臺少し暗く、柱の陰の兵を映し出す。 義太夫 ![]() (ト)尺八のひくく幽けき音、静まれる中より次第に強く。柱の陰の近從の聲、ここばかりは、ひとしきりひそめられて。 近從 「上弦の月、夜光鳥、要塞のトレドの空は暗からむ。クア川に土壁の續く古き道。オレンジ實る街の樹を荒らす怪鳥ありと聞く。國の亡びの御兆なり。異教徒により城は落ちたり。トレドへは峡谷を越えて行くものを山道とは。怨恨の民の永遠なる心の炎、嶺にありて仰ぎ見る稜々たる山、岸壁の岸に殘れる怨嗟の響き、草木の今にも震へん、我も懼れん。」 義太夫 ![]() 幾よもと ![]() 常磐津 ![]() (ト)柱の陰の門衛等の更に聲ひそめ。 門衛 「言葉もちがひ、陰もある。吾れ、さるとき鳥語を聞きしより、音を降らせる妖女を知る。眠りを誘ふ不思議、門の要所を守れる兵も知るべき事なり。」 門衛一 「かの美女の何を想ふや、正體不明にて怪しかりけり。」 門衛二 「姿を池に映しゐて、見入られたる敵の城將の娘。」 (ト)この時仕女きつぱりと、 仕女 「大理石に彫られたる女王の如く氣品高く、髪に洩したる緋ジャスミン、かけし羅絹の朧色。」 (ト)少し皮肉に、 老仕女 「白き萎えたる手をかざし、淡き紋様の打ち掛けの、馬衣の下の寶石のごとき魔力の輝き。」 老兵 「きらめき弾む夜の音色。」 老仕女「かの黒き瞳の、幾重もの魅惑。」 (ト)柱の前の重臣、 總督「世界制霸の國王は、強き意志を受けつぎ持てり。許せぬは攻めくる異教徒。牛を放牧したる大丘陵、オリブの畑押し分けて、鬪ひの火の手は止めたり。誇り高きグラナダの王、權威に滿ち正義を行ひて凱旋の歌響かせたるを。」 義太夫 ![]() (ト)總督首を少し振る。 (ト)門衞少し腹を立て、 門衞「いかに、いかに美しき公女なりとて敵は敵なり。」 |