侃々院>「岡崎偶感」岡崎久彦
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  岡崎久彦


 「岡崎偶感 松井大將南京入城詩有感」
         四月九日
   市川 浩


 三月二十九日偶感補足」感銘深く拜讀仕り候。愚生亦第一詩と第二詩との關聯心に懸り、下記の如き感想を得候間、御笑覽に供したく存じ候。


 第一詩皇軍の英姿を詠じて餘りあり、特に皇威の語を用ゐるは軍司令官としての誇なるべし。然るに第二詩一轉して沈痛の囘想となる、その落差大なること萬丈の瀧の如く讀む者を震駭せしむ。その瀧口は「妖氣來去野色昏」の一句にして、「妖氣」は岡崎、王兩先生と同じく孫文の理想を繼承せざる袁世凱より蒋介石、毛澤東に至る徒なる權力鬪爭、抗日運動と解すべく、今その妖雲霽れたりとは言へ、戰場廢虚となりたる中山門を見て誰か哀惜の念を抱かざらむ。


 この感慨、我が國のその後の運命を暗示せるものゝ如し。眞の「八紘一宇」の理想に左右樣々の思想暗雲覆ひ、遂に敗戰、占領の苦難に沈む。神州焦土と化したるを目の當たりにせし松井大將の感懷や如何なりけむ。


          以上


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