岡崎久彦 - 出師の表 - 十二
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『出師の表』 十二(最終回)
           岡崎久彦



 「此れ臣が先帝に報いて、陛下に忠なる職分なり。損益を斟酌し、進んで忠言を盡すに至つては、則ち攸之、、允の任なり。願はくは陛下臣に託するに討賊、興復の效を以てし、效あらずんば、則ち臣の罪を治して先帝の靈に告げられよ。若し徳を興すの言無くんば、攸之、杯、允等の咎を責めて其の慢を彰はされよ。陛下も亦宜しく自ら謀りて以て善道を諮諏(ししゆ)し、雅言を察納して、深く先帝の遺詔を追ひたまふべし。」


 第一次出師失敗後、孔明自らを罪し、降爵を受く。劉禪これを訝るも、費杯、孔明の心中を察してこれを施す。これ、劉禪に、言行一致の範を示すためなりしならん。


 忠言を斥くの性向ある劉禪に對し、郭攸之、費杯、董允の職務は忠諫にある旨を再度、三度訓戒し、その言無くばそれを咎むべしと、帝王の道を示す。これこそ出師の表全表の主目的なれ。然して後主自らも先帝の遺詔を追ひて、自ら戒め、正しき道を履(ふ)み、忠言を能く聞くことを重ねて諭(さと)すなり。


 そして表は結ぶ。
「臣恩を受けし感激に勝へず。今遠く離るるに當り、表するに臨 んで涕泣し、云ふ所を知らず。」


 出師の表を讀みて泣かざる者は忠臣に非ずといふ。孔明の衷情、赤誠、天人(てんびと)共に誰か感ずる事無きを得んや。


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