「日・清 海の戰ひ」 その四
臺灣經略及び媾和 稻垣 直
北洋水師を勦滅して黄海一帶は靜謐となりしかば、我が聯合艦隊主力は準備を整へて佐世保に集結、然る後南進して臺灣及び澎湖島の占領に向ふ。
本隊は依然として伊東中將の率ゐる處なるも、第一遊撃隊に於ては「浪速」艦長東郷平八郎大佐の少將に進級して將旗を「吉野」に掲ぐるを見る。全軍出發せしは明治二十八年三月五日なり。
臺灣本島の南方を迂囘して澎湖島の沖に達せる後、陸兵及び陸戰隊を刺げて馬公城を攻略。次いで漁翁島も我が有に歸す。
この間、適宜に艦砲射撃を加へて陸上部隊の行動を支援するのみにて大規模なる海上戰鬪も生起せず。臺灣本島の占領も亦陸兵の擔當にして海軍に於ては特記す可き事も无ければ簡略にその間の事情を述ぶるに止めん。
本作戰中にも擺和の議進められて四月十七日には條約成り、次いでそれに關する詔書も渙發せられて日・清間の平和は剋復せられたり。
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