加藤淳平 - 現代日本人の意識の倒錯(四)歐米指向の深化 - 二十九
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日本の文化傳統、
     如何にして切斷せられしや
                  加藤淳平


二十九 現代日本人の意識の倒錯(四)歐米指向の深化


 「戰後思想」、「變異戰後思想」の歐米至上視は、英語熱、左翼政黨の退潮と相俟ちて、日本人の意識に深く定着せり。已に占領期の「戰後思想」、日本の知的階層が價値觀の規準を歐米に据う。其の後の「變異戰後思想」、歐米指向を國民全般に廣めたり。

 戰後の日本全體に、米軍占領と引續く日米關係に因り、米國指向強かりしも、知的階層の間に、米國より西歐を高しとする性向ありき。日本人全般亦、一九九〇年代後半頃より、西歐に關心を抱き始めたり。長野冬季五輪大會開催と、蹴球(サッカー)の人氣増大、そが契機となれり。日本人に潛在せる、漠たる政治的反米感情、西歐への親近感を強む。


 固より「戰後思想」、「變異戰後思想」に、對米のみならず、對西歐指向強し。日本の學校教育、知的階層の西歐指向を反映し、西歐に關聯せる知識を重視す。日本の學校教育の、子等に植付くる世界像、特にそが提示せる世界の文化の姿、西歐文化こそ世界文化の本流なれとて、本流よりの逸脱、傍流文化に過ぎざる他の文化を、輕視し、無視す。

 一例を擧げむ。戀愛は青年男女の最大關心事の一なり。試みに現代日本の青年男女に、等の知る戀人等を問はんに、多數がロメオとジュリエットを擧ぐべし。日本古來の戀人等を擧ぐるは幾人ありや、心もと無し。お染久松、お夏清十郎等の物語の語る日本人の戀愛の姿、現代の若き青年男女に傳承せられず。西歐のロメオとジュリエットのみ、渠等が戀愛の規準なるこそ哀れなれ。


 ロメオなる若者、初めてジュリエットと遇ひたるその日、ジュリエットの頬に唇を當つ。更にその夜、ジュリエットの家を訪ね、寢室に忍込む。若き男の斯く積極的なる、西歐人の戀愛の態様なり。されど如何に大膽なる日本人の青年とて、誰か斯く積極的、攻撃的なるを得む。日本人の生理と文化、斯く行動するを許さざるなり。

 若き日本人男女等、ロメオとジュリエットを、戀愛の規準なりと思ひ誤らば、自らの戀愛のあり方に迷ふべし。


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