加藤淳平 - 現代日本人の意識の倒錯(三)政治行政制度の變革 - 二十八
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日本の文化傳統、
     如何にして切斷せられしや
                  加藤淳平


二十八 現代日本人の意識の倒錯(三)政治行政制度の變革


 近時の日本に、政府行政組織改革、相次いで實行せらる。改革の目的、何れも政治の行政指導力を強化するにありき。其の結果、今日の日本政府政治行政組織、一九六〇年代以前と比べ、多大なる變化を生ず。但し改革の實行せられたる故に、政治は改善せりと言得るや。否なるべし。端的に惡化せりと斷言する者多からむ。

 日本古來の政治文化は、官僚主導の政治なり。根源を尋ぬるに、中國の官僚制度に達すべきも、長き年月の間、日本獨自の發達を遂ぐ。殊に明治以來、歐米の制度を導入し、試行錯誤を重ねたり。歐米の制度と古來の文化傳統を調和せしめ、獨自の政治行政制度を完成せり。


 此の日本獨自の政治行政制度に、前提條件ありき。政府首班は、政治と行政の實態を熟知せる、知的能力に優れたる政治家たるを要す。中産階層に屬し、嚴正なる試驗もて選拔せられたる官僚出身者こそ望ましけれ。政治の主導權、政府官僚にあり。閣僚等、政府の役職に就きたる國會議員、政府官僚を監督す。政府の役職に就かざる國會議員の役割、選擧区の利害との調整等に限定せらる。

 之等前提條件、一九七〇年代以前は政治の暗默の前提なりしも、以後崩潰せり。政治家田中角榮の擡頭、世襲國會議員の増加、中産階層・官僚出身議員の減少、政治家と官僚の癒着等、そが原因なり。政治家、官僚の力關係は、前者の優位、決定的となれり。斯る變動を齎したるは、「戰後思想」、「變異戰後思想」の浸透、政治家、官僚の意識の變化、言論の影響力なりき。


 今官僚に往時の政治的實權無く、政治を動かさんには、政治家に癒着せざるべからず。政府各省廳に、閣僚のみならず、副大臣、政務官等と呼ばるる政治家、官僚機構の上に立ち、指揮・監督す。他の政治家、國會議員等、亦日々行政に容喙す。政治家の質は一頃より稍向上せるも、金と利權に群る本質、一朝一夕に變るものに非ず。


 日本の官僚主導政治文化の基本に、稟議制度と呼ばるる下意上達制度あり。此の制度のゆゑに日本の内閣首班の指導力、歐米の政治を模範と見る眼には一見弱體と映ずるを免れず。然るに小泉首相、歐米の政治に倣ふのみにて、首相の指導力を強化せむとせり。郵政民營化實現の、個人的恣意に基づきたる決定なりと見えたるは、此の故なりき。


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