逆旅舎>泰通信 第三十六號
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泰通信 (第三十六號)


         平成二十年十一月 大口 憧遊


ガラヤニ王姉殿下の葬儀


 プミポン國王の姉君ガラヤニ王女殿下の葬儀が十一月半ば六日間にわたり採り行はる。特に十四日より三日間は、全國民が黒服または喪章を付け、歌舞音曲、酒類販賣の自肅による國を擧げての服喪なりき。我々日本人も大使館よりの報せに從ひ黒を着用して弔意を表す者多し。されど西洋人の大半は無關心にて普段着のままなりき。

 國王は十二月五日に八十一歳の誕生日を迎へ給ふに、ガラヤニ殿下は今年一月二日、癌のため八十四歳の生涯を終へ給ひき。御遺體は特別の方法にて保存、十か月餘り後に火葬、納骨を行へり。十五日の火葬當日は、點火と共に古舞踊の上納あり。國王御夫妻始め皇族の悲しみに打沈み御覽遊ばさるゝ御姿を各テレビは放映せり。期間中王宮前廣場に集ひし國民は二百萬人に上り、教育の振興に功ありし王女殿下を悼み奉りぬ。

 泰國に於ては上流階級ほど遺體を長く保存する風習あり。保存には金もかかる故に貧者は一晩にて火葬に附す。されど一般には、遺體を一週間ほど寺院内に安置し、毎晩通夜を行ひし後火葬する例が多しといふ。

 遺骨は普通、喉佛等一部を殘し、僧の立會の下に河或いは海へ散骨す。殘る僅かの骨を陶器に入れて寺に納む。東京周邊に於ける動物の墓と同樣に收容棚に入れて外壁の内側に竝べ、その上に故人の寫眞を貼る。この爲市中に墓を見ることなし。但し地方に於ては、中國、日本と同樣の墓もありと聞く。

 葬儀の行はれし王宮廣場附近は八月末、反政府團體PDA(名前のみは「民主主義のための市民同盟」)が首相府を占據、政府支持の團體との爭ひ續きたるが、ガラヤニ殿下の葬儀中は兩派ともに自肅せり。しかるに葬儀期間の終りし二十日以降、再び爆發による死傷事件續發。十二月五日の國王誕生日までは本格的爭ひなからむとの予想も外れ、二十五日はPDAによるスワンナプーム國際空港占據事件発生、數日間にわたり外國人旅行者三十萬人が足止めとなる前代未聞の異常事態に発展せり。

 一般市民、繁華街の繁榮等に關りなきが特徴とは言へ、泰政情の渾沌は當分の間續くものと見るべきなるらむ。

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