安東路翠 [諸葛亮]五
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『諸葛亮』  安東路翠- 新作能 謠曲 - 五


   中國遺跡にて「諸葛亮」一番を 峨眉山上に建立


朝霞、山路を下り、嚴寒の峨眉をはるかに蜀の國原に着き候。
明けの花野の紫の、鈴の音さやにとどくなり
偉なるかな、こは孔明の祠にて候や
武侯をまつる単宮なりや殿宇つづきて麗しき踊子草とて紫に無梁殿へと 茂ひかかる。堂に圍まるその奧に一ツ塚あり。諸葛亮の墳墓と思ひしに こは劉玄徳照烈皇帝の御陵(みささぎ)なり
死してなほ主君守れり諸葛亮。
貴くもあるかな
降彩(あけぼの)の漂ひ來たりて晨風さやに今日の朝(あした)の瑞(めでた)た きや
人の眞の無上なる。人のまことの無上なる。
陵上に生ふ芝草に、名も無き小さき花發(さ)けり。 瑞(めで)たき光すみやかに
靜かにあるかな、聞こゆるものは日射(ひざ)しのみ。
帝釋天の珠綱の珠の光りか相映り、 蜀錦のくにの遠き祠にまゐらすること 夢に契りてまことの心運び來しなり。 御はからひの堂へつヽが無くまうでけり。
瑞でたき光すみやかに妙なり蝶の顯れて
長閑に春の色に舞ひ
御代のさかりを催しつ
主從の誓ひ新たにちぎらん。
夢の告げなるしら鳥の玉を啣(ふく)むの景こヽにあり。
終土(つひど)は千顆萬顆の玉七寶充滿に代らうや
末の世までも情(こころ)を交し
異國の民にぞ眞を教ふ
美しやな、美しやな、
昔を今に茫として、とこしへにしてうつつなる、
氣高き風姿青陽(はるひ)に止め 武侯の祠(ほこら)門を閉ぢ、麗らの夢は終(つ)ひにけり。


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