安東路翠 夔ノ神(三)
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ノ神(三)』  平成 二十二年一月二十六日  安東路翠


 狛犬が阿と吽の形 惑ひと悟りを表すとぞ言ふ
されば 空海の『うん字義』に書き給ひし眞言の阿と吽の形なるや「阿は因縁にて(繫)がる萬物のはじめ 吽は一切の煩惱の終りにてあり市井の人々の願ひを滿たす形にて吽は阿を含めり 吽 まさに聲を發する時魔軍壞す」(全ての惡は退散 天變地異も退散す 吽字發するとき全ての惡魔は降伏せり)『空海の思想』(梅原猛)
密教に阿字觀あり 萬物の根源阿字を觀想 阿字と一體となり 觀想廣がりて知惠の大日如來と一體となる
「日輪かすかに擧れば暗瞑逍退するが如し」『吽字義』(空海)


甲府盆地には空海開創と傳へられし古寺の遺れば、九世紀にかく言ひ給ひし御言葉正傳し給ひて十六世紀遠き山境の地にても永世に傳へけるにや


夔神阿形なりて雌形なれども髦より見るに雄形なるに角無し 林可の造られし狛犬の阿吽雙方の御しるし負ひて在りと言ふべけんや すべてを受けとめたる 素の底力を祕めたまふ 御象おんかたちにておはしましけり


白梅が香にも充ち足り春待ちし蒼天のけふの廣がりをただに懷かしとぞおぼゆる


珍らしきを尋ねし事のかくも良き沙汰 有難しとおもひ候ふに 振り向けば夔の神忽然と博物館に現じられ
林叢をいまし め身を跳らせて今は早ややしろに深く隱れたり
現身直ちに失せ給ひ
山の端に日が落ち行けば了然と
漂泊ただよひ來たりし一片の
神の憑依ひよういをぞ奇しきと
蒼生たみの祀りの尊かるに
盆地は闇に消えにけり


夔 の 神 の 古 き 奇 特 の 御 か た ち
甲 斐 に お は し て 世 々  () り 玉 ふ(路翠)


平 成 二 十 二 年 一 月 二 十 六 日 記


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